CATs'














「………あ」

一人居残っての練習を終え、部室に戻ってきたリョーマは、しばらく一歩も動けなかった。目の前の光景に目を奪われたからだった。

部室には、いつも最後まで副部長が残っている。全ての部員が帰るのを見届け、部室に鍵をかけるためだ。部活の後で疲れ切った体にはなかなか辛い仕事だが、現在の副部長は堅実にこなしている。

ベンチに寝転がる副部長と、その横で丸くなる一匹の仔猫。ジャージを肩にかけ、お互い寄り添うように狭いベンチの上で眠っている。突き出された足が寒そうだった。

「…海堂先輩」

リョーマは汗まみれのジャージを脱ぐのも忘れて、海堂を凝視した。










テニス部のコートに仔猫が入り込んだのは、12月に入ってからだった。体の小さい仔猫が3匹、痩せてよろめきながらコートの隅に蹲っていた。

仔猫はたちまち部員達に見つかり、皆に可愛がられた。そのうち誰かが段ボールやタオルを持ち込み、弁当の残りをやるようになった。

しかしリョーマは仔猫の首に、わずかながら首輪の後があるのを見つけた。初対面の部員達にすり寄り、餌をねだる仔猫たちは、まだ飼い主の影を追っていた。

そんな仔猫を、一時的に可愛がることはできなかった。すぐに学校は冬休みに入り、年末年始は部活もない。監督には秘密で飼っているから、仔猫たちをほったらかしにすることになる。

人に馴れすぎた動物は、人がいなければ生きていけない。今していることは、結局仔猫の命を縮めることになると、リョーマは思う。

リョーマの他にもう一人、猫に無関心な部員がいた。仔猫がいない時と同じように練習に打ち込む姿に、リョーマは少し彼を見直した。

「海堂先輩、動物キライなんスか?」

一度、好奇心から聞いたことがある。だが海堂はそれには何も言わず、ただ「練習に集中しろ」とだけ、言った。











…こういうことだったのか。

ようやく、リョーマはジャージを脱ぎ、着替え始めた。ロッカーからタオルを取り出し、体を素早く拭き、シャツに腕を通す。あまり音を立てないように気をつけ、手早く着替える。

その間、仔猫も海堂も身動き一つしないで眠っていた。静かな部室に、リョーマの立てる衣擦れの音と、仔猫と海堂の小さな寝息だけが響いている。

着替え終わり、最後にマフラーを巻いて、リョーマはまたベンチの前に立った。さっきより少し近付いて、海堂と仔猫を眺める。目をつぶった顔はどちらも穏やかだった。

「…興味ない、みたいな顔してたくせに」

猫が初対面でここまでなつくことはまずない。きっと、今まで少しずつ仔猫との時間を持っていたんだろう。その場面を想像して、リョーマは少し顔をゆるませた。

三匹の仔猫と遊び、その内の一匹が海堂に付いてきて部室まで来たんだろうか。それで海堂は追い返すことも出来ず、ベンチで仔猫を抱いていた。そのまま、いつまでも練習をやめないリョーマを待つうちに、猫と一緒に眠ってしまったようだ。

仔猫と身を寄せ合って眠る海堂は、欲しかったプレゼントをもらった子供みたいに、満ち足りていた。

リョーマは時計を見た。外は既に真っ暗で、部室も冷え込んできた。このまま寝かせていれば、どちらも風邪を引くだろう。

「…あと、5分だけ」

リョーマは床に腰を下ろした。海堂と仔猫の顔が、目の前で安らかに眠っている。













Happy Birthday,RYOMA!!
2003.12.24






リョ&海なのにまともな会話シーンがいっこもない。
祝う気があるのか…。




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